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zoom RSS 【恐竜講談「三畳紀・月の谷」の一席】

<<   作成日時 : 2015/02/03 21:01   >>

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さて。
本日お話しいたしまするは昔々の大昔。
まだ人間が生まれるずっと前のことでございます。

地球が生まれたのは今からざっと46億年前。
最初は熱い鉱物の塊だった地球がだんだんに冷えていき、大気と海ができ、その中に今の細菌のような小さな生き物ができ、更に進化して今の生き物の先祖が大方出揃った時代がカンブリア紀。
カンブリア紀…。
聞いたことあるんじゃあないでしょうか?
テレビ番組でカンブリア宮殿なんてのもありますし。

このカンブリア紀が「古生代」と呼ばれる大きな時代の区切りの始まりで。
それが5億7千万年前。
その次がオルドビス紀。
4億8000万年前。
それから虫と植物が地上進出を果たしたシルル紀。
4億4000万年前。
更に下って魚が繁栄し、陸には森ができ、両生類が生まれたデボン紀。
4億1000万年前。
続いて大森林と大型昆虫と大型両生類の時代、石炭紀。
3億5000万年前。
そして水辺から離れて暮らせる爬虫類と哺乳類のご先祖様が生まれて大繁栄したペルム紀。
2億9000万年前。
いや、ほんと、この哺乳類のご先祖、単弓類と申しましたが、当代の王者でございました。
有名なのは帆を背中に張った大きな4つ足の動物、ディメトロドンなどですな。
もちろん海の中にも魚や三葉虫、アンモナイトなどたくさんの生き物がいて、生物は陸海ともに繁栄を誇っていたのです。

ところが!
このペルム紀の終わりにとんでもない大絶滅が起こりました。
なんと全生物の9割以上が地球上から姿を消したというのです。
森が消え、海からは生き物がいなくなり、
当然ながら哺乳類のご先祖もあらかた姿を消しました。
わずかに体の小さな、運の良かった種類がほそぼそと露命を繋ぐのみ。
もう生き物終わりじゃないか、地球は死の星になっちゃうんじゃないかというくらいの大絶滅。
これがいわゆる古生代―古い生き物の時代の終わりでございます。

ですが、生き物というのは強い。
古い生き物が一掃されて迎えた中生代、三畳紀。
何とか生き延びた系統の中から、新しい環境に合った新しい生き物が爆発的に増えていき、それぞれ熾烈な闘いを繰り広げておりました。
これはそんな中でのお話し。
三畳紀の後ろ半分。今からざっと2億3000万年前のお話でございます

さて、三畳紀後期。
どういう時代かともうしますと、まず、暑い。乾燥している。空気中に酸素が少ない。
それというのもこの時代には、大陸がひとつしか無かった。
今、俗に5大陸とも6大陸ともいう、ユーラシア、アフリカ、オーストラリア、南北アメリカ、南極大陸がぎゅっと固まって北極から南極にかけて一つの大きなパンケーキみたいな塊になっておりました。

これを称してパンゲア超大陸。

そこがどういう世界だったかといいますと、これはもう一言で言って「住みにくい」。
まず海からの水蒸気が中の方まで届きませんので大陸内部は乾燥する、砂漠になる。植物も動物も海よりの雨の降るところでしか生きられません。また火山活動も活発で二酸化炭素の濃度も高く、その温室効果でとても暑かった。今温暖化と騒いでおりますが、この頃は今の五倍ほども二酸化炭素があったそうですからそれはもう半端じゃなく暑かった。その上酸素濃度が低くて今の半分ちょいくらい。どこもかしこも富士山の頂上並みの酸素濃度だったそうですから、これはまあ、今の私達人間から見たらとても住みにくい過酷な世界でございます。
しかしどんな時代でもそれに合った生き物は生まれてくるもので。

その三畳紀後期、パンゲア大陸の南西部、後に南アメリカ・アルゼンチンのイスチグアラスト/タランパヤ国立公園、俗に「月の谷」と呼ばれるようになる場所。

おりしも今、大きなシダの林の中、茂みをかき分けて出てきた1頭の生き物。
全身を緑がかった金色の鱗で覆われ、大きさは頭から尻尾の先まで3mほど。もっともその半分近くは尾っぽでございます。その尾の終わる辺りからスラリとまっすぐに伸びた2本の後ろ足だけで立ち上がっております。二足歩行。歩くことから開放された前足には鉤爪のついた三本の長い指。ゆるいカーブを描いた首の先には鋭い歯がズラリと生えた細長い頭。
その歯が血に濡れているのを見れば今しも獲物を仕留めたばかりというところか。と、今出てきたばかりの茂みをふりかえると、ぱっと取って返した。
シダの茂みに囲まれた小さな空き地には死んだばかりの1mほどのスカフォニクスという原始的な爬虫類。その破れた腹に首を突っ込んでいた数匹の生き物がはっと驚いて逃げ出す。

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「この泥棒どもがああっ!」
逃げ遅れた一匹を丈夫な後足で押さえつける。
「てめえ、俺の獲物をどうしようと言うんだ」
「申し訳ありません。この所獲物が少なく一家揃って飢えておりました。これだけの獲物、少しくらいならお目こぼしいただけるかと」
「ふざけるんじゃねえ。このご時世だ。力のないものは滅びて当たり前、人の獲物をかすめて生きようなんて了見じゃ(グッと力を入れて)殺されても文句は言えねえな」
と、押さえつけられた方はハラハラと涙を流し
「はい、私とて元々は自分の力で獲物を取るのが誇りの血筋。せっかくの祖先の名に泥を塗りました。女房子どもは逃がしおおせた今、最早命は惜しくございません。どうぞご存分に」
潔く観念した様子に「おや?」と思ってよく見てみれば。
くすんだ灰色地に白い斑点と、こしらえは地味でありますが長い後足と鉤爪のついた前足、長い尻尾と俊敏そうな体つき。大きさこそ自分の半分もないものの体つきは瓜二つ。

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「お前…まさか…恐竜か?」
「え?あなた様も?」
「おう!先の古生代ペルム紀末の大災害でほとんどの生き物がおっ死んだあと、打ち続く災害にも何とか生き延び生き延びて小さいながらも一統を立てた祖先マラスクス様の流れをくむ恐竜…ヘレラサウルス家のヘレ太郎というのは俺だ」
「まことですか!」
力の緩んだヘレラサウルスの足下からガバと跳ね起き居住まいを正して対峙する。
「私も同様で。エオラプトル家のエオ吉と申します」
「そうかあ、いるとは聞いていたが…他には仲間はいるのかい?」
「私もあまり会いませんが、一人友人で変わり者がおります」
「変わり者?」
「はい、食う食われるの修羅地獄から抜けたいとシダの葉っぱや虫を食べて生きております。いつかは植物だけで行きていけるようになりたいと」
「変わったやつだな、なんて名前だ」
「パンファギアと申します。私より一回り小さいですが姿形はよく似ております」
「そうか、いつか会いたいものだな」
と、ヘレラサウルス、ちらと獲物をみやりますと
「悪いが俺も腹が減っている。先にこいつを食わせてもらうが、何、全部は食いきれねえ。俺が満腹していなくなったら女房子呼んで腹いっぱい食いな」
「え?よろしいので??」
「残っていたらな」
ニヤリと笑って食事を始めるヘレ太郎に一礼すると逃げた家族を探しに行くエオ吉。

やがて満腹したヘレ太郎。シダの向こうにエオ吉一家の気配を認めますと黙って立ち去る。

暑い乾燥した気候も森のなかですと爽やかに感じられます。どれ食後の水を飲むかと水場に向かったヘレラサウルスの前を大きな影が覆います。

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「お…シロスクスか」
全長6m。恐竜と同じに後ろ足で立ち上がって歩いているが、れっきとしたワニ―後にクロコダイルやアリゲーターを生み出すクルロタルシの一族でございます。体はでかいが雑食で植物も食べるのでおとなしい。だが、まあ、からむと面倒なのでやり過ごします。

「そういえば…パンファギアといったか、植物を食べる仲間…そいつもいつかあのくらい大きくなれるのかなあ」

この時代、ワニの系統は大変に栄えておりまして大きさも食べ物もすみかも様々なワニの仲間がたくさんおりました。
今と違って水辺ではなく陸上の生き物で恐竜とはまた違った形でしたが2足歩行するものもあり、俊足で機敏な恐ろしい生き物でありました。

やがて水場につくとそこにもワニの一族ヴェナチコスクスが。こちらは1.3mと小さいのでヘレラサウルスの敵ではないが先ほどのエオラプトルならいい勝負。
また、彼方にはもじゃもじゃと濃い灰色の毛に覆われた頭の大きい親子連れの生き物が。
「お!エクサエレトドンだ」

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牙の他に形の違う歯を持つ噛む力の強い私達哺乳類のご先祖筋。単弓類のキノドン科に属する生き物でしっぽを除いた体の大きさはヘレラサウルスと同じくらい。
「先代ペルム紀の王者の末裔だ。ずいぶん小さくなっちまったがそれでも名門だもんなあ。ああ、あそこにいるのはイスチグアラスチアだ。こいつも単弓類だ。でかいなあ。体だけなら俺の倍近くある。葉っぱ喰いだから怖くはないが顎はでかいし、骨組みががっしりしてるもんなあ」

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新興だが大きく勢力を広げている機敏で多様なワニの仲間。
勢力は落ちているもののたくましく環境に適応して形を変えて生き残っている名門のがっしりとした単弓類。
比べると我の体の作りはいかにも華奢で単純で頼りない。生き物としての歴史も浅い。
「ぽっと出の俺達が得意なことと言ってもさしたる力は無し。みんな同じような体で大きさもそうは違わない。恐竜の一族はこの世界で生き残っていけるんだろうか。いつか大きくなってあいつらに追われずに済むようになるんだろうか」
水を飲みながらそんな事を考えるともなく考えている。

…と、その耳に遠くからの風に乗ってかすかな声が届きました。
「悲鳴!?あれは…エオラプトル!!」
すわ!彼らの身に何が起きたのか。ヘレラサウルス、全速力でシダの林を抜けソテツの藪を飛び越え飛び越え、先ほどの場所、エオラプトルの親子が食事をしているはずの場所に戻った!そこで見たものは!!
「サウロスクス!!」
全長5m。60センチほどもある頭には鋭い歯がびっしりと生えているここでは最大の肉食のワニ!!
スカフォニクスの残骸を漁るサウロスクスの足元にはエオラプトル親子のあるいは踏み潰され、あるいは食いちぎられた変わり果てた姿が。大方獲物の匂いを嗅ぎつけてやってきたサウロスクスに気が付かず、逃げ遅れたと思われます。

「ああ…獲物を譲ったが仇になったか…すまない…すまない」
飛び出して一矢報いてやりたいのはやまやまなれど、到底勝てる相手ではない。
はやる気持ちを必死に抑え、ギリギリと歯噛みしながらシダの茂みに身を潜めてじっと待つ。
やがて食い飽きたサウロスクスが立ち去ったのを見極めて近寄ったヘレラサウルスの耳に
「ああ…また…会えた…」
見れば未だかすかに息のあるエオラプトルがぼんやりと焦点の定まらぬ目でこちらを見ている。
「すまない、俺のせいで」
「いえ…ひさしぶりのごちそうに警戒を忘れた私の落ち度です。家族を守らなくちゃあいけなかったのに…」
立ち上がろうとあがくが最早力はなくわずかに足が空をかくばかり
「悔しいなあ…あいつらより…でかく…なりたいなあ…何も恐れなくて済むほど大きく…なりたい…」
「なれるさ、きっとなれるとも!今は無理でも100万年、いや1000万年たつうちにはいつかあいつらを蹴散らして俺たち恐竜の一族がこの世界の王になるんだよ!」
「なり…ましょうか」
「なるよ!ほれ!お前の友達のパンファギアはあのシロスクスのように。俺らはサウロスクスの糞野郎よりもっともっと大きくよぉ」

…ふっ…と、笑いのような息を残してエオラプトルの目から光が消えました。
血の匂いを嗅ぎつけてあちこちから小さな生き物が集まってまいります。死せる者は生ける者のために、がこの世界の掟。ヘレラサウルスはエオラプトルの前足をそっと咥えあげると、噛みちぎって、ごくりと飲み込みました。
「形見を頂いていく。あばよ、エオラプトル。何年かしたらまたどっかの世界で会おうなあ」
去っていくヘレラサウルス。その影が長く伸び、日は早西に落ちかかり、東の空には白い満月が姿を表しました。

この2000万年後、三畳紀の終わりには恐竜は多様な進化を遂げ、続くジュラ紀には空前の繁栄を遂げ、史上最大の動物となって一億数千万年にわたり陸の王者となりますがそれはまた別のお話。
未だ小さな生き物だった恐竜の王朝黎明期奇譚「三畳紀・月の谷」の一席でございます。

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